2005年10月16日

一杯のかけうどん

讃岐うどんツアーなるものが存在するな~んて事は、全く知らなかった。前後関係はいろいろあるのだが、兎に角、 讃岐うどんを讃岐まで食べに行こうと奥方が言い出したのだ。どちらかといえば、私はグルメな方ではない。そんなに、 外で食べたいとは思わないのだ。出来れば、黒門市場や鶴橋の市場、近くの市場でも充分なのだが、 買ってきた食材を家で食べるほうが好きなのだ。だが、その日に限って何気なく、「そやな、ほな、行こか」と、 ほんとうに何気なく答えたのだった。

おそらく、その潜在意識の中には、イサム・ ノグチ庭園美術館がまだ、美術館になっていなかった頃、会社の出入りの植木屋さんに連れられて、その工房を訪ねた。 そしてその工房の裏山にある山田屋さんという屋敷を店舗にしたところで讃岐うどんを食べた。そのぶっかけうどんの美味しかった記憶が、 鮮明に残っていたからだと思う。勿論、うどんだけではなく、その時、イサムノグチの彫刻とその工房全体から受けた「心の広がり」 のような印象が讃岐うどんの記憶と密接に結びつき、私の中のある意識を築いていたからなのだろう・・・・・・。

インターネットで讃岐うどんと検索をしてみる。驚いた。讃岐うどんの世界って深いんだ。ネットをうろつくうち「麺聖のうどんグルメの旅」 というサイトに行き当たった。へぇー村上春樹氏も三日間うどんを食べ続けたのかぁ・・・。いろいろなサイトを見るのも、本を買うのも、 めんどくさくなってきたので、そのサイトの中の「うどんツアー」 に書いてある「麺聖おすすめルート」に順ってツアーをする事に決めたのだ。

多くの製麺所を兼ねたうどん屋さんは日曜日が休みらしい。祭日の10月10日の月曜日が調度都合が良かった。 朝の7時50分RIMG0134山越」 といううどん屋さんの広い駐車場に着く。「いやぁ・・全く早く着きすぎたなぁ・・・開店までに1時間もあるなぁ・・・ まぁゆっくりしようか」とあたりを見まわすと、それでも私たちは2台目だった。 駐車場の裏にある民家のおばあちゃんが話しかけてきた。「はよう、着きなはったなぁ」全く、私もそう思った。 我ながらうどんを食べるのに「朝の8時かよー」とそのバカなRIMG0135行為に少なからず恥ずかしく思えてきた。「9時まで待たんでも、もう開けてくれはるわ」 とアドバイスしてくれた。少し歩いて店の前に行くと、既に5~6人が開店を待って並んでいた。普通の町の中の普通の民家だ。 「わー、並んでる」と思うまもなく、既にその「わー」の一員になっている私がそこにいた。

おばちゃんの云う通り、開店時間よりもずいぶん早く、「お待たせしました」という元気で明るい声と共に店が開いた。 後ろを見ると既に10人以上の列だった。朝の8時の出来事だ。恐るべし讃岐うどんの世界・・・・・。 前の人から順番に列に並んで注文が聞かれるていく。「えー、どれにするー。えー、わかれへん・・・・・」 前の人の注文を取るおばちゃんの勢いと、後ろの列を待つ人たちの迫りくる殺気のようなものに圧迫され、そのうえ何度も繰り返すが、 朝の8時だぜぇー、讃岐うどん初心者の私には何を注文したら良いのか全くわからなかった。ちょっとしたパニック状態といえた。 訳のわからぬまま、前の人の注文を真似て、「釜卵うどん」というやつを注文した。店のおばちゃんに、大盛りやね。と聞き返された。 ほんとうはRIMG0136普通で良かったのだが、前の人たちが皆、大盛りを注文しているその勢いに押されて、「はい」 なんて思わず答えている気の弱い私だった・・・・。 裏庭のような、庭園のような、そんな所で食べた。きっと、ブームで、 店を拡張したんだなぁ・・・・。確かに美味い。カルボナーラのような味だった。当然といえば当然だが、 朝ご飯を食べていなかったので、つるつるつるつるとおいしく食べた。天ぷらとかも注文したりして、 その後にまだ6件も回る予定であることを考慮するのをすっかり忘れてしまっていた。

RIMG0139次の店に行くことにする。「田村」 という店だ。改めて今、撮った写真の時間を確認すると 2005:10:10 08:37:04 となっていた。 振り返ってみてもその時間帯に、大阪から讃岐まで出かけ、うどんを食べに、かけずり回ろうとしているその行為自体に驚く。 開店が9時30分らしいが、大型トラックの運転手と、もうひとりのお客さんが店の席に座って待っていた。流石に、 9時30分まで待つのも辛いので、また次回にと、別の店に行くことにする。「また次回」などと思っているあたり、もう既に、 讃岐うどんツアーの魅力にはまっていたのだろう。

山下」という店を探す。 カーナビがあるのは有り難い。綾川という川の土手のそばにあった。ここにRIMG0143RIMG0145行列は出来ていなかったが、先ほど、山越に居た何人かを見かけた。そうだ、 皆、同じように「ツアー」 してるのだ。うどんを注文すると机におろし金に大きなショウガが置いてあっRIMG0149た。壁には色紙のサインがいっぱい貼ってある。そして、うどんが普通に美味しかった。 客は少ないが雰囲気は抜群に良かった。何よりも店の人たちの素朴にうどん作りに携わっているその姿勢と雰囲気を「見習いたい」 とまで思った。そうそう、入り口の正面に大きな釜が鎮座していて薪の炎が燃え、湯気が立ち上がる様子が何ともいえず良かったなぁ・ ・・・・・。

RIMG0154そういえば、「郵便配達員休憩所」な るカンバンが入り口の前に掲げてあった。 そんな看板が存在すること自体がちょっと不思議に思えた。郵政民営化になったらそんな看板はどうなっていくのだろう・・・・。 店を出ると獅子舞が舞っていた。どうも、その日はそのあたりの祭りのようだった。「祭り」と「だんじり」 という結びつきに慣れ親しんでいる私にとっては、「祭り」と「獅子舞」と「讃岐うどん」という結びつきは実に新鮮な体験となった。

もう既に、お腹はいっぱいだったが、ここで辞めるわけにはいかなかった。近くにあるという「蒲生」 という店へRIMG0162行くことにする。カーナビがありながら迷った。 どこだろうと探すと静かな田園の中に車の列と2~30人ほどの行列が出来ている場所を見つけた。「えー、まだ食べるん」 と息子がわめいた。列に並ぶ気力などもうとうない息子は用水路で遊んで待った。もはや一杯のうどんを3人で分けることにした。 ちょっと、しょっぱいなぁと思った。まだ9時30分なのに朝から三杯ものうどん、 これはひょっとして体に凄く悪いツアーじゃないのかとさえ思えてきた。誰かが言っていた。そばは何も混ぜないで練るけど、 うどんは塩を混ぜるからなぁ・・・・。そういえば、先日訪れた岩手で食べたわんこそばは何杯でも結構食べられたっけ。

次の店に行くかどうかは論争になった。息子は全然遊んでないといいだした。確かに小学生には「うどんツアー」 を遊びとは呼べないよなぁ。そればかりか、朝からうどんばっかり食べさせて良いものかと自責の念にもかられる始末だ。 「私は太るからもう食べへん」と奥方が言い切った。このツアーを言い出したのはてめえではないのかと憤りを感じながら、 もはや腹一杯どころか、のど元までうどんの出汁がきているのを実感出来るほどだった。すったもんだしたあげく、 最後の一軒にする事で話が落ち着いた。その後はどこかに観光にでも行こうと言うわけだ。最後の店は「中村」という店にした。 カーナビを頼りに町の中を走ると、あちこちでコンチキチンと祭りが行われていた。その音を聴きながら店を探した。 商店街も何もない静かな町の一角に行列の出来ている店がほんとうにぽつんとあった。RIMG0170RIMG0172RIMG0177RIMG0176

 

 


30分ほど並んだ。もう食べないと言いきっていた二人が一口食べ出すと、やはり美味しいのか、つるつるとすすりだしたのだった。 かくして讃岐富士をバックに一杯のかけうどんを3人で分けて食べる事になった。じゃんじゃん。
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追伸
長々と書いてみて感じた。まぁこの楽しかった讃岐うどんツアーが出来たのはインターネットというものがあり麺聖という方が情報を皆にシエアーしていたからだなぁと。 店のリンクは全てそこのサイトからです。この場を借りてお礼を言っておくことにしよう。それと、工務店を営むものとしては、 ここに登場したうどん屋さんのような何でもない、普通の店というか小屋のようなものをつくれて、商売繁盛に関われたら有り難いなぁと。 それとそれともう一つ、どれもが自宅を基盤にして家族で店を営んでいるような感じだった。きっと、 そういう形態でしかつくれない物作りや味があるのだろうなぁとつくづく思った。そういう店に行列が出来るのも良いもんだなぁ・・・・と。


 

投稿者 木村貴一 : 2005年10月16日 20:41 « 神無月 | メイン | 栗 »


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