2007年08月19日

屋久島その2

P106065310年ぶりに履く、奥方の登山靴がこんな問題を引き起こすとは・・・。奥方だけでなく、 私も想像しえなかった。その日、縄文杉を見に行くのに、普通のホテルに泊まって、朝の3時45分に起きるのは、 ちょっと異常だなぁと思いながら外の天候を見た。あー、雨が降っている・・・・。

今は、荒川登山口まで自家用車では行けないらしい。それで、縄文自然館の駐車場からシャトルバスが出るとの事。借りたレンタカーで、 4時40分に駐車場に着くと、なんとなんと、既に50人以上の登山客が行列をなしていた。中高年より若いカップルが圧倒的に多い。暗闇の中、 雨がだんだん激しくなってくる。5時頃には150人ほどの列に・・・。奥方が、「ちょっと、異様な光景」と呟きながら、 自分の靴の紐を締め直すと、なんと、靴底のラバーがパカッとはずれた。「えー、大 変・・・」と、奥方と共に私も動揺したが、 ちょうどその時、バスが到着した。P10605092台目のバスに乗車して下さいという、アナウンスと周囲の勢いに押されて、とにかく、 バスに乗ってしまった。

道路の崩落箇所を通過するため、途中で、小さなバスに乗り換えて、ようやく、登山口まで到着した。意外と、バス代金が高いなぁ・・・・ とおもいながらバスを降りると、どしゃ降りの雨になっていた。奥方の靴底がはずれてたので、靴ひもを解いて、底にぐるっと回して、 靴底を固定することにした。暗闇、どしゃぶりの雨、靴底のトラブル、不穏な空気を感じ取ったのか、息子が、えー、こんな雨で、歩くのぉー、 と言い出した。

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とにかく、周囲の勢いに後押しされながら、歩き出すことにした。雨の勢いは衰える様子もなく、川を見ると、 その激しさに圧倒されそうだった。パカパカと口が開いた靴で、奥方は歩いていた。わりと、その様子は滑稽なのだが、 笑っている場合ではなかった。一応、登山届けを出すようになっているので、気軽な気持ちすぎても、ちょっとまずい。

小杉谷集落跡までは、意外と早かったが、トロッコ軌道の終点、大株歩道入り口までが長かった。途中、奥方が、靴の異常を訴える。あー、 なんと、もう片方の靴底もパカッと開いたのだ。軌道の脇に腰掛けて、リュックの中のスタッフバックの紐を抜き取って、靴を縛ることにした。 そして、再び歩き出す。沢山の人が追い越していった。単調な道が延々と続く、次のコーナーを曲がり終えたら、休憩地点かな・・・ と何度もおもう。暫くして、その単調さと大雨と奥方の姿に嫌気をさしたのか、息子が、もう歩かへん。と言い出した。確かに、 奥方が両方の靴をパカパカとさせて歩く様子も不憫だし、この先、あの靴で、山道を登れるかも不安だった。

それで、「このへんで、無理せんと、引き返そうか」と言うと、「少なくともウィルソン株までは、なんとしても歩くワー」と奥方がいう。 息子のためにも歩こうと思ったのか、インターハイ出場の体育会系の根性がムクムクと湧いてきたのか、そのあたりの心境は定かではないが、 このまま続行することになった。息子は渋々、歩き出した。といいながらも、暗いムードでもなく、意外と陽気だった。 沢山の人が歩いているのが、心強くし、助けになったのだろう。10年前のように、ほんの数組だけの静かなトレッキングであれば、 中止していたかもしれない。

トロッコ道から山道に入ると、息子のペースが一気に上がった。アスレチックのように楽しみながら勢いよく登りだした。奥方は、 何度も靴の紐を締め直しながら、慎重に登った。同じような靴底はがれ仲間を発見して、少しは慰めになったのか、辛抱しながら歩いていた。

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9時過ぎ、歩き出して3時間ほどかかって、ウイルソン株まで、到着した。ここで、奥方を置いて、縄文杉まで行こうとすると、息子が、 「おかあさん、一緒に上まで行こうよ」と言い出した。この雨の中で、ここでじっと待つのも同じように辛いと思ったのか、「じゃぁ、歩くワ」 と、やっぱり3人で歩くこにした。

P1060559それから、約1時間30分、縄文杉にようやく到着する。相変わらずの雨が激しく降る中、そこだけは、 光が差し込む明るい神秘的な「スペース」だった。10年前に訪れた時は、木肌に触れ、横から眺めると、 前方にかなり傾いて立っているのが、縄文杉の意外な印象だった。

公園のように綺麗に整備されたデッキの展望台から沢山の人が雨に打たれながら眺めていた。その様子を眺めながら、 この縄文登山は富士登山と同じように、もはや、一種の「信仰」だなぁ・・・とおもった。居間から眺める、 北向きの庭と同じようなシチュエーションがそこにあった。特徴的な大きさや形をもつ「杉」は様々な所にあるけれど、 この縄文杉が育つ場所には一種独特の「場所性」というのか「空間性」というのか、そういったものがあるのかな・・・・と、眺めた。        

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帰りはウイルソン株まで、一気に下る。そこで、ホテルでの朝食の代わりに用意してくれた弁当を食べた。相変わらずのどしゃ降りの雨。 そんなにお腹が空いていたわけでもないのだが、食べ出すと、美味しい。こんな時は、バナナやミカンの「甘み」がありがたいなぁ・・・・・。

P1060609小杉谷集落までのダラダラと続くトロッコ道で、息子のペースが一気に落ちた。靴が痛い、 もう歩くのは・・・・と。靴の中に水がびっしょりと入り込み、靴下が濡れて足がむくんでいた。2度ほど、靴を 脱がして足をマッサージし、足も、心もほぐす。方や奥方の靴の開きはますます大きくなり、道中、 同じように靴のゴムがはがれた人と慰め合っていた。

多くの人に追い抜かれながら、スローペースで、歩く。歩き続けたら、何時かは到着するだろう・・・・と、ゆっくりと歩き続ける。時折、 梢から日が差し込む。と思ったら、また、激しく雨が降る。天候の変化が激しい。3度ほど、シカに出会う。次のコーナーを曲がると、 小杉谷集落か。次のコーナーを曲がると到着か・・・と、繰り返しながら3時45分、ようやく到着した。約10時間のトレッキングだった。

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到着後、奥方の顔にも、息子の顔にも、それなりの充実感を見た。諦めずに、最後まで行ってよかった・・・。ホテルに着いて、奥方の、 紐でがんじがらめに結んだ靴を脱がす。水に濡れて紐が締まって簡単にははずれない。それで、ハサミで切ることにした。それが、冒頭の写真だ。

靴を脱ぎ、その靴を屋久島で捨てた後、なお一層の達成感と開放感が奥方の顔に広がった。おそらく、 奥方は二度と登山靴を買うことはないとおもうなぁ・・・・・。

 

投稿者 木村貴一 : 2007年08月19日 17:56 « 木山水海(屋久島その3) | メイン | お盆休み(屋久島その1) »


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