2009年07月19日

インタホーンとお茶と北斎と富士とB級グルメの旅とその8(完)

インターホーンが、ピンポーンと鳴り、奥方が、インターホンのボタンを押す。液晶画面に何かの勧誘の女の人の姿がフェードインして現れる。柔らかい口調で、「資料の内容を見て下さい」。と、カラーモニターの画面越しに、語りかけてくる。それに受け答えをしながら、奥方は、インターホンの画面のおばちゃんに向かって、「はーい。わかりましたぁー、またぁー、見ときますぅー」と、愛想の良い返事をしながら、モニター画面に向かって、何度も、頭を下げていた。

訪問者の人には、こちらの姿がみえないわけで、食卓の椅子に座りながら、奥方とモニターに映るオバチャンの姿を両方同時に眺めていると、何だか、可笑しかった。うちの家でも、つい最近、価格が安くなったこともあり、モニターなしのインターホーンからカラーモニター付きのインターホーンに替えたばかりの事で、そういえば、新築やリフォームをしている最近のお宅では、ほとんどが、そういう機種を取り付けているので、それぞれの家庭で、ちょっと可笑しな光景が展開されているのだなぁ・・・・と、想像してみた。

モニターの奥では、ノーメークやからぁ・・・とか、部屋が散らかったままで、イヤヤワー・・・・とか、パンツ一丁の姿のままやでぇ・・・・とか、髪の毛濡れたままでぇ・・・とか、・・・・・・・、ひょっとして、訪問者が押すインターホーンのボタンの向こうでは、想像も絶するような光景が広がっているのかもしれない・・・・・。

そんな事を考えている、その傍らでは、セミの鳴き声が、どんどん大きくなり始めていて、気付いたら、もう夏だなぁ・・・・と、奥方の入れてくれた、日本茶を飲みながら、パソコンの画面に向かっている「私」。

「北斎と富士とB級グルメの旅8(完)」

時として、夏でも、熱い日本茶が、美味しいとおもう。「このお茶、もう最後の一杯に近いから・・・・」と、奥方が、一言、付け加えながら、テーブルの上に置いてくれたのには、訳があって、それは、ゴールデンウィークの旅の途中で、偶然に立ち寄って、買った、富士宮市のお茶やさんに、大変、親切にして頂いた印象があって、そのお茶を飲むと、その親切な印象も飲む事になるからだった。

北斎富嶽三十六景山下白雨

この旅の北斎と富士の最終撮影目標は「山下白雨」という絵で、それは、富士宮市あたりで描かれた絵なのだという。朝、8時過ぎにその周辺に到着すると、霧雨。かすかに見える富士山。もう少し雲が退くと、頂上まで見えそうなのだけれど・・・・。

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雨なので、車の中から、撮影を試みるが、撮ったこの写真を、今、振り返って見ると、「もう、これぐらいで、エエのとちゃぅ・・・」というような、諦めムードになっていた様子がよくわかる・・・・・。
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それでも、気を取り直して、撮影してみると、北斎は、富士山の右端に見える、瘤のような、小さな頂きを、描くときに、省いたのだなぁ・・・・、編集したのだなぁ・・・・と、気付く。富士山を右端に寄せて描いたのには、デザイン性だけでない、「実情」もあったのだろう・・・・。それにしても、描くときに、どこをどう工夫すれば、そうなるのかは、解らないけれど、それでもやっぱり、北斎の絵は、「私を見守る富士山」のように思える・・・・・。

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まぁ、そんな訳で、右端にずらした富士山の撮影も試みるのだが、この状況下で、それに、私の写真技術とセンスでは、撮影は無理だと、はっきりと気づき、早々に諦めた。

富士山よりも、茶畑に興味を示したのが、奥方だった。「お茶、買う、買う」と、外国人が話す日本語のように叫びはじめた。大成功とはいかなかった北斎と富士の撮影だったけれど、もう、これで、充分満足することに決めて、お茶やさんを探すことにした。そして、撮影場所の直ぐ近くで、偶然にも、出会ったのが、写真の御茶屋さんで、「やまぜん製茶鈴木園」というところだった。

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お茶の葉の「緑」と、なんとも言えない「香り」。献上茶指定園というのだそうだ。そうか、天皇に献茶をするという、そういう習慣が日本には、あるのだなぁ・・・、珈琲や紅茶は、どうなんだ・・・・と、その、「緑」と「香り」の中で、脳内が、呟いていたのを思い出す。

お茶を買いながら、この場所に偶然にも行き着いた、そのとりとめのない、北斎と富士とB級グルメの旅の話をし、お店の奥さんからは、お茶のお話を聞く。元気そうな子供さん二人が、興味深そうに、私たちをのぞきこんでいた・・・・。

ついでに、美味しい「富士宮やきそば」のお店をお伺いすると、「どこの家でも、家で作って食べるので、お店に行って、食べる事は、めったにないから・・・・」と、言いながら、地図を書いて、教えてもらう。そうそう、そういうのが、その土地独特の食文化と味なのだ・・・・。大阪のたこ焼きだって、お好み焼きだって、そうなんだ・・・。車に乗る前には、富士山の湧き水まで、プレゼントしてもらった。ありがとう。

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近くのスパー銭湯で、朝風呂に入り、住宅街の中にポツンとある、お店で、富士宮焼きそばを食べ、「田貫湖からの富士が美しいよ」と教えてもらたので、立ち寄って見るも、雨で、富士山は見えなかった。

DSC08020(1)その湖から近い猪の頭オートキャンプ場で、泊まることにした。疲れが溜まっていたのだろう、木立の中に囲まれて、ぐっすりと眠る。翌朝も雨。渋滞予想の高速道路を避けるため、早々にキャンプ場を後にする事にした。午前中に東名・名神を使って大阪に向かうと、お昼には、自宅に帰り着いた・・・・・。(完)

と言う訳で、もう、お盆がやって来るという季節になってしまい、ついこの間の出来事だったはずのゴールデンウィークの旅も、かなり前の事に思えてきた。何だか、ちょっと、間抜けな感じ・・・・。

高速道路が、1000円なのか、ただになるのか、それぐらいの違いしか、理解できていない、私の政治情勢があり、また、どうなっているのか、よくわからない経済情勢が絡んでいて、インターホーンの向う側の出来事のように、その、裏側で、どんな混乱が起きているのか、知るよしもない・・・・・。

それでも、やっぱり、お盆休みはやってくる訳で、世の中はどうであれ、それはそれなりに、楽しみでもあって、子供だって、楽しみにしているのだろう。まぁ、楽しみ方を工夫しながら、あまりお金を使わない、省エネな旅行でもしてみようかともおもう。

投稿者 木村貴一 : 2009年07月19日 22:39 « 一緒に | メイン | 鰻 「北斎と富士とB級グルメの旅7」 »


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