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住宅建築 2001年8月号

特集●森と家/Part-1 
里山に暮らす

今田町の家

設計=現代計画研究所・大阪
施工=木村工務店
自然の中に暮らしたいと願う建主のために
急斜面にふわりと着地するかのように建てられた
外に目をやっても生い茂る木々が見えるだけ
一切は静寂に包まれている
建主との出会いは, まちなかのトラッドなバ
ーであった. そこの友人達が集まって, 神
戸の東難にあった建主の家で,鏑を囲みなが
ら私の撮ってきたイエメンやトルファンのス
ライド会なんぞをやっていたものだ. 当時,
私が構想中の,造成をしない林間住宅地の計
画(T 新都市)の話に興味を示していたのが
建主だったが,阪神・淡路大震災に遭遇し家
を失った後は,信楽や青森の友人の家を転々
とした後,残りの人生を自然の中で暮らした
いと, 六甲山を越えた三田のアパートに移り

住み,新たな住居のための土地を探し始めた.
気に入ったところが見つかったので見て欲し
いと言われて行ったのがこの場所だった.
向かいに山を望み,間に清流を挟んで水田,
小さな集落を奥にもつ行き止まりの道路の手
前の南斜面に見事に雑木が密生していた.
フラットなところが全くない急斜面で、「ここ
に家が建てられるか?」と聞かれて,「物理的
には可能だ」と答えた時には, どうやったら
空中に浮いたような家が出来るだろうかと考
えていた. さきの林間住宅地の計画では,
大きなエネルギーや機械を林間に入れずに,
手作業の延長のようなやり方で家を作ること
を条件にすべきだと言っていたのだが, その
ことと, 空中に浮かすということが, どうや
ったら結びつくかが課題だった. そこで,
谷状の部分を跨ぐかっこうで, 2 本のR C 柱
を打設し,樹林を跨いで道路からクレーンで
鉄骨のステージを組み, その上にプレカット
された木材による軸組乾式工法の,周囲の自
然に負けないような空中線間住宅をつくると
いうことにした. 外壁は,厚み70mmのスギ

板を柱間に落し込み,ダボとボルトで縫って
壁としている. 住宅までのアプローチとな
る階段は, とにかく土をできるだけいじりた
くなかったので,枕木を人の歩みに沿って並
べていっただけである.
はじめての冬,「朝,窓の外は雪かと見まがう
ほどに厚く霜が降り,それが,陽がさし気温
があがる頃になると白い湯気となり一種幻想
的世界です」という手紙をもらった.
( 江川直樹)