台風21号

台風21号が接近するという火曜日の朝。百貨店が早々に休業を決めて、電車も午前中で運休するらしく、かといって、工務店という立ち位置の私たちが、平日の明るい時間帯に休むというのは、不自然で、会社か現場で待機するのがフツウなコトだろうし、それで、現場養生を済ませた現場監督は、午前中に会社まで戻って待機しながら、パソコンに向かってデスクワークをしていた。

午前中は、テレビを付けて、台風情報を聞きながら、そうそう、ほとんどの現場監督と設計担当者が会社に居たので、お客さんの打ち合わせ室として利用している応接間のプロジェクターを55インチの液晶モニターに交換する作業を数人で決行し、わりとのんびりとしたムードが漂う会社の雰囲気で、明るい昼間の時間帯のプロジェクターの映像が視にくく、それが液晶モニターに変わって、見やすくなり、台風のお陰で良かったわ…..ぐらいのムードだった。

台風接近にも関わらず、ほとんどの大工さん達は、それぞれの現場で作業をしていたが、お昼のテレビでは、四国に上陸した台風が、神戸方面に上陸するらしく、芦屋で新築工事中のベッショ大工チームに電話を入れると、意外と、のんびりとした雰囲気だったので、NHKテレビの情報を教えて、すぐに会社に戻るように伝えた。他の大工さん達は、大阪市内、吹田、茨城、東大阪だったので、台風が通り過ぎるまで、現場で待機しながら作業をするということだった。

お昼過ぎ、南の空が少し明るくなってくると、社員の数人が、台風の目とちゃいますかぁ!と言いながら、わりと余裕の笑顔をみせていたが、午後2時頃になると、徐々に風雨が強くなりだし、会社の窓越しに、解体予定の長屋のブルーシートの屋根養生が見えていて、この勢いでは、そのブルーシートが飛びそうだったので、何人かで監視を続けていた。その数分後、猛烈な勢いの突風が吹き荒れ始め、あっっ!という瞬間に、そのブルーシートが空に舞い上がった。それを見るやいなや、本能的に、数人の現場監督と私が、会社から飛び出して、そのブルーシートを確保するために道路に出た。

体が飛ばされそうな嵐の中、電線に引っかかった、そのシートを確保しようとしていたら、突風が吹き荒れ、瓦やトタンやポリカや木材が、空から降ってきて、屋根に登ってその作業をしていたタカノリのすぐ横をかすめっていった。ヒヤッとした瞬間だった。なんとか無事に数人でシートを回収し、数メートル先の会社に戻ると、シャッターがレールから外れ、道に瓦やトタンや木材が散乱し、飛来物が命中したのだろうか、会社隣の住宅の木製建具の硝子と、会社前の戦前の長屋の木製建具のオールドな窓硝子が割れて、道路に散乱していた。幸いにも、現場から戻って、加工場で作業をしていたベッショ大工とヒラボシ大工とモリ大工が、突風のなか、バラ板とベニヤで、その2件の窓を塞いでくれた。

3階の窓から周囲を監視していたタナカくんが、4階屋上の保育園のフェンスが倒れて落ちそうになっているという情報を届けてくれたが、何人かと道路に出てみるものの、吹き飛ばれそうで、道を歩くこともままならず、暫く待機するしかなかった。窓から外を見ると、時折、トタンや木材や断熱材が空に舞い上がり飛んでいた。午後3時半頃になると嵐が収まってきて、それで、社員皆で、保育園の屋上に行って、一気にフェンスを回収する作業をした。屋上庭園にあった遊具が風で飛ばされて、隣の屋根の上に落下し、建物と建物の間に挟まっていた。近くの内環状線から消防車や救急車のサイレンが鳴り響いて幹線道路も異常な事態になっている雰囲気が漂い、誰しもが、フツウでないコトが起こっていると、ハッキリと認識するようになった。

午後4時半頃になると、風雨が収まり、社員皆で、会社周囲の道路の散乱物の片付けと掃除を始め出すと、近所の人達も道路に出てきて、道や路地に散乱した物を一緒に片付けた。会社裏の道路には、鉄骨造3階建て建て売り住宅の屋上パラペットが、飛来物に当たったのか、5mほどの長さのパラペットごと道路に落下していて、それを数人で担ぎあげて、軽トラックに積み込んだ。そんなこんなで、軽トラック3台分ほどの散乱物を片付けたが、環境局に電話をすると、あまりにも件数が多く、いつ引き取れるのか、判らないそうで、駐車場の一部が散乱物置き場と化した。

風雨が落ち着いてから、多くの電話が掛かりだした。屋根瓦が飛んで、養生して欲しい…..という電話を中心に、翌日水曜日の朝からは、電話が鳴り止まず、150件を超える依頼があって、手伝い職の松本組も2班に分かれ、現場監督と設計担当者も自ら養生に奔走した。本来なら、瓦屋さんや、板金屋さんが、養生するのだが、大阪の瓦屋さんは、先頃の地震による、高槻方面等の復旧がままならず、それに、この台風で、ほとんどパニック状態のようで、電話応対だけで、まともに作業することが出来ない状況らしい。ちなみに、「まちのえんがわ」で、10月に予定していた瓦コースターワークショップは、こんな状況下で、ワークショップをする時間と心の余裕がないとのことで、中止となった。

なかには、古い知り合いの方から電話があり、壁が崩落し、隣地に飛散しているので、何とかして欲しいということで、自転車で行くと、昔、あんたのおじいちゃんに建ててもらった家やで、お金無い時に頼んで、ちょっとずつお金を払ってくれたらエエで、というて、建ててもらったんやぁ。という50年ほど前の祖父の仕事に出会ったりした。

行政でブルーシートを配布することになって、とっても有り難い対応だが、案外、ブルーシートによる養生は、プロでも、なかなかムツカシく、土嚢袋に砂や瓦を詰めて重しにするにしても簡単にはできない。うちでも現場監督を中心に、タイベックといわれる透湿防水シートと気密防水テープを使った養生方法を使っていて、その方法があちらこちらで「流行」の気配で、とくにホームセンターでも購入出来る気密防水テープで、割れた瓦に貼り付けるなど、簡易な方法なので、利用し易い。

生憎、ここ2,3日雨が降り続き、養生作業が全く進まず、また仮に養生作業が完了出来ても、その後の、特に、瓦屋さんの対応は、全く日程が定まらず、やきもきする状況で、それでも台風被害状況をデータベース化し、なるべく協力会社の職人さんにスムーズに対応してもらえるように、バックヤードの作業は進捗中ですが、台風被害によるお困りの多くの皆さんには、建築業界全般の、現場監督と職人不足への、何卒のご理解のほど、よろしくお願い申し上げます。